【解説】Ad Techの今後 ~ AI全盛期にこそ人間の直感を活かす
サードパーティークッキーについての振り返り
Kaizen Platform CTOのwatabeです。
以前、 「【解説】『サードパーティークッキーとマーケティングの 現在とこれから』クッキーの基本を理解して、未来を読み解く」という記事を書かせていただきました。
ここにも書いた通り、サードパーティークッキーの規制により、デジタル広告の市場を取り巻く状況が大きな変化を遂げる可能性があります。
サードパーティークッキーの規制より前に起きていたこと
Ad Techの隆盛とAIの活用
およそ10年くらい前からでしょうか。広告業界カオスマップに代表されるようなAd Tech企業がいくつも立ち上がりました。これはネットワークの高速化などに伴い、
・オープンな仕様のもとで、広告配信の各機能を細分化する
・細分化された各機能を、専門の会社が当該分野に集中して高度化する
・それらの中で1番いいものをつなぎ合わせることで最良の広告パフォーマンスを得る
という思想でした。技術の高度化のなかで多くの企業がAIに投資し、その機能を強化していきました。
メディアの寡占化とプラットフォームによるテクノロジーの取り込み
上述の"Ad Tech"は「メディア * 広告主」の組み合わせが多いので、広告主の手動での運用が困難であるということでその重要性がとても高くなっていました。
しかし、GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)に代表される巨大なメディアがインターネットのトラフィックのシェアの大部分を握るようになってきました。インターネットの総トラフィックの80%近くがFacebookとGoogleからによるもの、という記事(※1)もあります。
そして、FacebookやGoogleがAd Tech企業の買収や自社での開発によって、これまでAd Tech企業が有していた機能を自社プラットフォームに取り込んでいくようになります。
結果として、これまで外部のAd Tech企業に開かれていたFacebook面の買付機能などがクローズしていき(※2)、プラットフォームによる顧客の囲い込みが強化されていきます。
サードパーティークッキーの規制
Ad Tech企業はFacebookやGoogle以外の媒体と連携することで、広告効果を上げてきましたが、前回の記事でも書かせていただいたように、サードパーティークッキーの制限によってさらに苦しい立場になっていくのではないかと思います。
広告パフォーマンスを改善する新たなるAd Tech
人手での運用負荷の軽減
運用型広告では、AIが開発される前からターゲティングの設定を手動で設定することによって広告効果を上げていくことが行われていました。簡単な例だと、
・配信するメディアのジャンルを設定する
・配信する時間帯を設定する
・配信する地域を設定する
のような設定を広告運用担当者が手動で行っていました。
技術の進化に伴い、これらの設定は配信をしていく中でAIが学習し、自動的により良い設定が適用(=最適化)されていくようになってきました。例えば、Facebookにおける "oCPM" という機能は、自動的に最適化配信を行ってくれます。
クリエイティブの重要性の増大
私も以前広告サーバーを開発していたのですが、広告の最適化って簡単に言うと
「ユーザーセグメント × 広告クリエイティブ」の最適なマッチングを探すこと
なのだと思っています。最終的にユーザーに表示されるのは「クリエイティブ」なわけなので。その時に重要になるのが「マッチング候補となる広告クリエイティブの数と品質」なのです。
広告サーバーは裏側でユーザー毎のクリエイティブのマッチ度の計算を行ってるわけですが、簡単な例を示すと、以下のようになります。
(複数ある広告クリエイティブの候補から1番マッチ度が高い物を探す場合を想定。オークションとか細かい仕組みが他にもあるのですが割愛します)
この例だと、ユーザー(1)に対してはCが一番マッチ度が高くなって広告として選ばれます。ユーザー(2)に対してはBが選ばれます。
しかし、100点満点でユーザー(1)に対して50点、ユーザー(2)に対して40点だと物足りないと感じませんか? せめて70点以上のものを出したらもっとクリックしてくれる確率上がりますし、広告の収益も伸びそうです(広告サーバーの開発者目線で話しています)。
これが、クリエイティブの数が増えるとどうでしょう。
ユーザー(1)に対して90点のDが、ユーザー(2)に対して90点のEが選ばれます。
一般的にマッチングの問題は、10人の中から1人を選ぶより、100人の中から一人を選ぶほうがマッチ度が上がります。
どんなにマッチングのAIの精度を上げても、マッチングの候補の数と質が上がってこないとマッチングの最終的な精度は上がりません。私も広告サーバの開発をしていた時はマッチングのAIの開発を頑張っていたのですが、「もっとクリエイティブがほしい」と切に願ったことを今でも覚えています。
まとめると、「誰に何を配信すべきかという選択」の部分はAIによって自動化され人手での運用の必要性は下がってきていますが、自動で最適化ができる(=色んなパターンをすばやく試すことができる)ようになることで、広告クリエイティブの重要性が上がってきています。
動画の活用の拡大
2019年は、広告における動画の活用がかなり一般的になってきました。
「動画元年」とここ5年くらい言われ続けてましたが、2019年は本当の意味で「動画元年」になったのではないかという実感があります。
動画がここまで利用されるようになったのは以下の2つの理由があると思います。
1) ネットワークの高速化
・2020年にはトラフィックの75%が動画になるという予測データがあります(※3)
・ユーザーが日常的に動画に触れるようになり、動画というフォーマットが「特別なもの」ではなくなってきた、と言えると思います
2) 動画というメディアの優位性
・15秒程度の動画でも静止画4枚分くらいの情報量を入れることができます
・また、動きをつけることでユーザーの注目を集めやすいので、フィード広告などでユーザーの親指(=スクロール)を止めることが静止画よりも容易になります
AIによる自動化の限界
AIによる自動化の試みがクリエイティブの分野にも行われてきていますが、まだまだうまくいっていないと思います。これには以下の理由があるのではないかと思っています。
1) 動画というフォーマットの複雑性
・静止画に比べて情報量が多いということは、その分選択肢の幅が広がります
・パラパラ漫画で1秒ずつの静止画だとしても15秒で15枚の静止画になる
・これに書くシーンのつなぎの効果やイフェクトを考えるとパターン数がとても増えます
2) クリエイティブに求められるものの品質
・クリエイティブにもとめられるのは最終的には「人の感情に訴える」必要があり、必要事項が書かれていればそれでよいというわけではありません
・「なんとなくちょうどよい」というものを機械が理解するのはとても難しいです
3) 最適化にかかるコストが高い
・広告配信には当然広告費用がかかります
・上述のように試すべきパターン数が増えると、それを試す試行回数が増えます
・結果として試すことにかかる費用が膨大になってしまう
直感とそれを活かすデータ活用
そこでクリエイティブ制作に活きてくるのが「人間の直感」だと私は考えています。「直感」と聞くとロジカルではなく再現性がないと考える方も多いと思いますが、私は実は結構直感の力を信じています。
「直感と論理」と書くと論理のほうが強そうに見えますが、「ディープラーニングと決定木」と書いたらどうでしょう。経験に基づく直感は、ディープラーニングがまさに実現しようとしていることだと思っています。
例えば画像の識別で「この画像が猫だ」と判別するのに、
・勝手に学習してニューラルネットワークの各ノードで何をどう判別してるかはわからないけどその集合としてのネットワークで猫だと判別するのがディープラーニング
・耳が尖っていて目が直径1.5cmでしっぽが長い、というルールで判別するのが決定木
です。
決定木で「人の感情に訴える」クリエイティブをつくるためには、かなり大きな木を作る必要があり、それは過適合(=オーバーフィッティング)を起こしがちです。
しかし、直感だけでは成功確率や再現性を上げていくことは難しい。そこで広告の配信データなどを活用し、データドリブンなアプローチと人間の直感を併用することで効果を上げていくのが「次世代のAd Tech」になるのではないかと考えています。
(※機械化しやすい領域と機械化しづらい領域をうまくテクノロジーで組み合わせていく、とも言えると思います)
Kaizen Adの取り組み
弊社の広告動画を制作するサービスKaizen Adでは、以下のような試みを通じて、「クリエイターの直感」と「データによるアプローチ」の組み合わせを実現しようとしています。
広告プラットフォームとのデータ(API)接続
・制作した広告のABテストの結果をクリエイターに(改善率のみ)共有し、クリエイターの制作の振り返りを支援
クリエイタープロフィール機能
・トップクリエイターが作るクリエイティブを見ることで、勝ちパターンを学べる仕組みづくり
ベストプラクティスのクリエイターへの定期的な共有
・業界、媒体ごとのベストプラクティスをクリエイターに共有
・常に最新のクリエイティブトレンドをクリエイターが学べる環境づくり
また、今後もどんどんデータ連携機能を追加していく予定です。
Kaizen PlatformはデータドリブンなPDCAと人の情熱をテクノロジーでつなげることを創業以来志向しています。Kaizen Adにおいてもそれは同じです。
動画は分析するのが難しいメディアフォーマットですが、人間のクリエイティビティを補助するツールなどを開発していくことで、より効率的に動画をハックしていくことをプラットフォーム上で実現していくための機能を開発中です。ご期待ください!
※1……Facebook and Google dominate web traffic, but not the same kind
※2……ニュース拾い読み:Facebook Exchange、2016年11月までにサービスを終了予定
※3……Cisco Visual Networking Index: Global Mobile Data Traffic Forecast Update, 2015–2020” by Cisco, Feb 3, 2016.
過去記事はこちら
[宣伝] 当社ではKaizen Adという広告動画を制作するサービスを運営しております。Facebook、Google、Amazonの3社からパートナーの認定をいただいている日本で唯一の会社です。ご相談はお気軽にどうぞ。