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オンライン入試・ウェブオープンキャンパスの実現に奮闘「新規事業を立ち上げるようなもの」。実践女子大の「学生目線」なトライ&エラー

 2014年に文学部・人間社会学部、短期大学部のキャンパスが渋谷へと移転し、より一層人気の高まっている実践女子大学。

 例年、春のオープンキャンパスシーズンには多くの受験生を呼び、大学・短期大学部の魅力を広くPRしてきた。同大はコロナ禍でオンライン入試やウェブオープンキャンパスを実施。トライ&エラーを繰り返して、受験広報のDX化を垂直立ち上げした。

 当記事では、8月25日に行われた、実践女子大学とKaizen Platformのオンラインセミナー「学校法人のデジタル化と新時代のPR戦略」の様子をお届けする。

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実践女子大学/実践女子大学短期大学部 
学生総合支援センター 入学支援課 
浜中 邦興 氏
川村 瑞樹 氏

リアル接点が失われたコロナ禍の受験広報

 大学広報はリアル接点を基点としたコミュニケーションだ。オープンキャンパスや大学説明会、入学試験など、リアルな場で受験生・高校生とコミュニケーションし、キャンパスに実際に足を運んでもらうことで学校の魅力を伝えている。しかしコロナ禍であらゆるリアルイベントの開催が困難に。

 そのとき、入学支援課の川村さんたちが挑戦したのが、「学校広報のデジタル化」だった。オンライン入試を導入し、デジタル上に特設ページを開設してウェブオープンキャンパスを開催。それに加えて、Zoomで模擬授業なども行った。新しい取り組みが実現するまでの道のりは平坦なものではなく、トライ&エラーの連続だったと川村さんはいう。

 具体的に何を行ったかというと、まず同大が決断したのが、10月に行われる「総合選抜型Ⅰ期」のオンライン化だ。昨年までAO入試と呼ばれていたこの日程は、一次選考で書類とエントリーシート、小論文を提出し、合格者は面接やグループディスカッションへと進む。

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 今回行ったのは、二次選考のオンライン化だ。一次選考通過者にはZoomのURLとID、パスワードを郵送し、二次選考では面接室を想定した複数のZoomミーティングを活用して面接やグループディスカッションを行った。

 このような前例のない仕組みを整える上で、大変だったのは実施を想定した事前準備だったと川村さんはいう。

「シミュレーションしてみると、予想以上のリソースが必要だということがわかりました。利用するネットワークや発行すべきZoomのアカウント数、Zoomの操作方法、試験内容などについて説明するスタッフの数、パソコンやヘッドセットといった機材など、リアル入試とは全く違う点に気を配らなければなりませんでした」

 学科や専攻によって求める能力、知識、適性も異なるため、選考内容もそれに応じてアレンジする必要もある。川村さんは、改めてオンライン入試が実現したプロセスについて振り返り、重要だったポイントについて次のように話す。

「やむを得ないとはいえ、既存の試験方法をダイナミックに変えるのは慎重になるべきだと改めて思いました。新しいやり方に挑戦するときは、次から次へと検討すべき点が出てきます。これまで知らなかったZoomの機能もたくさんありました。今回、オンライン入試が実現したのは、何よりも学内の理解と協力を得られたからです」

また、オンライン入試の実施にあたり受験生の受験機会の確保を第一に考えたと浜中さんは話す。

「受験生・高校生の受験環境は学生ごとに異なります。PCのスペックや回線速度、受験する部屋などさまざまな要因がありますので、環境が準備できない学生にはキャンパスに来校してもらい、学校が用意した機材・環境で受験が可能なことを早期から案内をしてきました。回線や機材によって受験機会を損なわないよう、トラブル時の案内フローや受験にあたってのマニュアル送付、事前の接続テストでの詳細な説明などきめ細やかなコミュニケーションを心がけました」

 DXを実現させるためには、周囲との細やかなコミュニケーションと信頼関係を築くことが重要だと、川村さんは強調した。

ウェブオープンキャンパスでリーチ不足を解消

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 次に同大学が行ったのは、ウェブオープンキャンパスだ。同大では“オープンキャンパス”として、6月から「Web Open Campus “Connection”」という特設ページをウェブ上に開設。オンライン上でいつでも同大について理解を深められるよう、常設サイトとした。サイト内には10分以内の短尺な動画をメインに、様々な記事コンテンツを掲載して受験生の学校理解を深めてもらおうと考えた。

 ウェブオープンキャンパスの主なコンテンツは4つ。「在学生スタッフによるキャンパス紹介コラム」「入学・入試情報」「動画で知る実践女子大学の魅力」「オンライン進学相談」だ。

目指したのは在学生主体の情報発信にすることです。在学生スタッフが積極的に協力してくれ、様々な企画やアイデアを出してもらっています。そのおかげか閲覧数は日増しに増え、サイトのクオリティも上がっていると感じています。スタッフの学業に支障をきたさないよう工数削減の工夫もしています」(川村さん)

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 最も力を入れているのが、動画コンテンツだ。Kaizen Platformと共に制作した「1分でわかる!」シリーズでは、学科ごとの授業内容や身に付くスキル、就職先などを1分にまとめ、普段から動画に慣れ親しんでいる10代に最後まで視聴してもらえる工夫を行った。

「いまの高校生は動画コンテンツのクオリティに敏感です。面白くなければ、途中で見るのをやめてしまう。瞬時に自分にとって必要な内容か、いますぐ視聴できる長さかを判別して、見るかどうかを決めているようです」(川村さん)
 
 また、平日の日中に行われたオンライン進学相談では、同大の職員と在学生スタッフが、受験生からの相談にZoomで対応。3人1組のリラックスした場をつくり、ざっくばらんに、受験への不安や同大への期待について話してもらう機会を設けた。直接在学生と話すことで、受験生のモチベーションアップにもつながっているという。

 7月19日にはライブ配信タイプのオープンキャンパスにも挑戦。3つのウェビナーチャンネルを設定し、それぞれコンテンツを同時配信。1コンテンツを15分以内にまとめ、各キャンパスの教授陣が模擬授業を行うなど、受験生の興味をひくコンテンツを提供し、選んで視聴できるよう工夫した。参加者は500名以上と、多くの受験生がオンライン上でオープンキャンパスを視聴した。

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 最近では感染対策を行い、人数を制限した対面型のオープンキャンパスも実施しているというが、そちらもすぐに定員が埋まってしまうほど盛況だそう。川村さんは

「オンラインでオープンキャンパスを見てから、リアルなキャンパスを訪問する受験生もしますし、対面型のオープンキャンパスに参加してから、オンライン進学相談を予約する受験生もいます。受験生はオンラインとオフラインを自由に横断して本学を知ろうとしてくれているように感じます」

 と話す。

 今後は、奨学金や留学についての「1分でわかる!」動画の制作や、Facebook広告における動画活用、LINE公式アカウントのbotによるおすすめ動画のレコメンドなどを利用し、受験生の動画閲覧を促進したいと考えている。

「新規事業を立ち上げるようなもの」早期にDXを実現できた理由

 コロナ禍という危機的な状況で、実践女子大学が素早くDXを行うという決断を下せたのはなぜか。同大では前年度の入試が終わる2月末~3月初旬にかけて新型コロナウイルスの感染拡大について危機感が高まり、3月末のオープンキャンパスが中止に。

そのとき「このままでは次年度の入試の実施が危ぶまれる」と早期に危機意識を持ち、学内全体で意識合わせをできたことが、DXに大きく舵を切った一つの要因となったという。その頃、先駆的な大学がウェブオープンキャンパスを行ったことも、大きな後押しとなった。

「それをきっかけに、新規事業を立ち上げるような覚悟で、受験広報をDX化するんだと腹が決まりました。学内に対しても『リスクがあるかも知れないけれど、とにかくトライ&エラーをさせて欲しい』と働きかけました。」(浜中さん)

「もともと“受験生目線”の強い大学なんです。教員も職員も受験生のためならということで動く風土があります。デジタル化に挑戦したいからとか、新しいことに取り組みたいからとかっていう運営目線は捨て、受験生にとってベストなことに取り組もうと伝えていったことが、DXの実現を加速させました」(浜中さん)

 特にオンライン入試については、地方の受験生に対する強い思いがあったそう。

「県境をまたぐ移動が制限されている中、本学がリアル入試を強行すれば、試験を受けられない地方在住の高校生が、受験機会を失ってしまうことになります。学生の将来を考えてきた私たちにとって、それは絶対に許されないことでした。受験生・高校生のためにも、オンライン入試はなんとしても実現させなければと思いました」(浜中さん)

 このような危機的状況でこそ、学校法人の真価が問われると2人は口をそろえる。これからも実践女子大学では「学生のためにできること」を、最大限に行うことを何よりも大切にしていきたいと話す。学内のコンセンサスを取り、組織を動かすのは大変だったというが、その壁を乗り越えたことによって同大学のDX化は成し遂げられたのだろう。

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(文:石川香苗子、編集:Kaizen Platform公式note)

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