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デジタルはヒトの弱い面も拡張する

『DXプレイブック』は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の専門家集団 Kaizen Platformの須藤による解説シリーズ。loT、サブスクリプション、AI、D2C、OMO、MaaSなどをキーワードに「DXとは?」を考えるDXの入門書です。

デジタルで直接つながれる

デジタルはコミュニケーションの様々なコストを極小化します。移動コストをゼロにもしますし、ネットワークを構成すれば、それ以後ヒトとつながる手間なく一斉配信も可能になります。つまり声を拡張していると言えます。

たとえばdreamstockというサービスをご存知でしょうか。

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(出典:https://dreamstock.co.jp/

サッカーの練習動画をアップすることで世界中のコーチからフィードバックがもらえ、世界一流チームからのスカウトも期待できるサービスです。このサービスを使えば、アフリカの田舎の少年がヨーロッパ名門クラブのスカウトを受けられる可能性が開かれるのです。

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(出典:https://www.mercari.com/jp/

より身近な例でいうとメルカリです。ゴミとして捨てるのがふつうの「トイレットペーパーの芯」が売れるのはご存じでしょうか。小さい子どもがいる家庭では、工作の授業で使うニーズがあるからです。

この例からも分かるとおりメルカリは「捨てちゃおうかと思ってたけど、買う人います?」「お金を払ってでも、欲しい!」といった声を大きくし、不要品を持つ人が、その不要品を欲する人を見つける手間を極小化しています。

声の拡張に潜むリスク

一方、そういった声の拡張が進むことで助長されてしまう負の側面もあります。

たとえばオンラインで行われる「私刑」です。容疑が確定しないまま犯人らしき人物の顔が載せられ、住所を暴かれ……というように、私人が独断で制裁を与える事態が頻発しています。結果的に冤罪で、無関係な一般人の情報がさらされてしまう、という二次被害も起きています。

同様にフェイクニュースの拡散に加担し、様々な混乱を引き起こしてしまうケースも散見されます。大きい地震が起きた直後「ライオンが動物園から逃げ出した」といったニセの情報がSNSに投稿される例などがそうです。そういったセンセーショナルなニュースは、真偽の確認もそこそこに、ユーザーの反射的拡散のもと、一気に広まってしまいます。

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▲SNSで拡散されたフェイクニュースの例

同じく受け手として注意しないといけないのは、政治メッセージです。

アメリカではトランプ大統領を中心に、SNS解析と個人データを駆使し、パーソナライズしたメッセージを投げかけています。建設的な議論を積み重ねることを目的とせず、対象者の怒りをうまく刺激し支持を獲得しているというのです。アメリカ国内では、そういった活動の過熱化が分断や不寛容の深刻化につながることが危惧されています。

データの分析から、それぞれの有権者に合わせた政治広告を作り、一人一人のフェイスブックなどに流します。

たとえば、埋もれている支持者を掘り起こすときに、「ピックアップトラックを所有している白人男性」に注目します。一体なぜなのか。データを分析すると、彼らは「ハンティングが趣味」で、「銃規制には反対」。そして「愛国心が強い」傾向があることが分かりました。

こうした人たちへの広告に使うのは、トランプ大統領の反対派が暴徒化し、兵士を慰霊する像を破壊したというニュースです。兵士を侮辱したとして愛国心に訴え、人々の怒りをあおるのです。それによって、共和党への投票を促そうというねらいです。(出典:https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4204/index.html

デジタル時代に求められる理性と倫理観

一見、ひとりひとりがエンパワーされることは素晴らしいことのように思えますが、いいことばかりとは言えません。

多数決で最善解を出せるとは限らない。それは、これまでの歴史が証明しています。かつてのヒトラー政権は国民の圧倒的な指示をもって生まれました。受け手であり発信者でもある私たちは、真偽はもちろん「伝えるべき」「非難すべき」といった評価を常に自問していかないといけません。

こういった事態は、声の拡張にだけ起きているものではありません。前回述べた知性の拡張、つまりAIの利活用でも同様のことが危惧されています。機械的な判断にすぐれたAIが最適化に終始した結果、雇用や教育の分野で差別を助長してしまう可能性があるのです。それを防ぐためにも、倫理面の整備が必要とされています。

人類は、デジタルによるエンパワーメントによって、有史以来もっとも個人の可能性がひらかれている時代を迎えています。

しかしこの力は諸刃の剣。拡張効果が逆側に振れるリスクを常に念頭において自省し、倫理かつ理性的な判断が必要であることを理解しなければいけません。

今後もDXの考え方や中国・アメリカをはじめとした海外の情報・事例を配信していきますので、Kaizen Platform公式noteのフォローをぜひお願いします!

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写真:©︎blueprint

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