【営業、マーケ、組織、採用も】「当たり前」をいかに愚直にやれるか、がウィズコロナ時代に試されている?
5月14日、株式会社ビズリーチ主催のオンラインイベントが開催されました。ランチタイムにスタートした本イベントは、ゲストのSNSなどから募った約400名の参加者が同時視聴。
株式会社ビズリーチ HRMOS事業部 インサイドセールス部 部長・茂野明彦さん、株式会社才流 代表取締役社長・栗原康太さん、Kaizen Platform須藤が登壇し、コロナ禍のような有事において、BtoB事業者はどのようにシフトしていくべきか、営業、マーケティング、組織、採用などの視点から語りました。
(当日の様子は、Twitterハッシュタグ「#B2B_Hack」からもご覧いただけます)
※なお、本イベントは5月14日に行われたもので、新型コロナウイルスなどに関する情報はその時点での情報であることをご了承ください。
「“nice to have(あったほうがいい)”から“must have(ないと困る)”にメッセージを変えるのが第一」
茂野 今回のテーマは「BtoBマーケティングにおけるハック思考」です。ハックといえば、須藤さんが書籍『ハック思考』を出版しています。
須藤 「ハック」とは、投じるお金と時間を変えずに大きな成果が得られるよう、転換効率を劇的に高めることをいいます。要するに「ちょっとうまくやること」です。
茂野 今、新型コロナウイルスの流行であらゆる業界が打撃を受けています。才流の栗原さん、BtoBマーケティング事業におけるコロナの影響はいかがですか。
栗原 4月の半ば頃、知人のマーケターやBtoB事業責任者に現況をヒアリングしたんです。すると約半数の企業で、リード(見込み顧客)の獲得数が半減していることがわかりました。
今は直接会うことが制限されているので、多くの企業がデジタルコンテンツの作成やオンラインセミナーに注力しています。しかしオンラインでリードを獲得しても、その後の商談や受注で苦戦する企業が多く、やはりマイナスの影響が大きい状況です。
茂野 さまざまなコロナ対応の中で、絶対に外せないポイントを2つ挙げるとすれば、どのようなことでしょうか。
栗原 まず一つ目は、この時代でも売れるようなサービスの開発、マーケティング・セールスメッセージの変更です。
今の状況では「nice to have(あったほうがいい)」の製品に予算は下りませんから、いかに顧客にとって「must have(ないと困る)」なプロダクトを作れるかが鍵になります。既存の商品でもメッセージを変更して、売れるものを増やすことが第一です。
もう一つは、バケツの穴を防ぐこと。皆さん、何年もビジネスを積み重ねてきて既存の顧客リストを持っているでしょう。まずは既存リストに連絡を取って顧客の状況を把握し、必要ならばフォローしてください。
リードが減り、「新しいリードを獲得しなきゃ」「広告投資をしなきゃ」と考えてしまいがちですが、既存サービスのメッセージ変更と、バケツの穴を塞ぐこと。この2点が漏れると商談も契約も取れません。
茂野 まずはしっかり守ってから攻めるということですね。
事業は「ターゲット×タイミング」のかけ算で立て直す
茂野 須藤さん、危機に瀕した事業を立て直すために、何かハックすべきポイントはありますか。
須藤 ハック思考には、4つの大事なポイント「観察」「考察」「推察」「洞察」があります。
子どもの頃にやった、朝顔の観察を思い出してください。
種を植えると芽が出た、花が咲いたと、これまでとの違いを見つけるのが「観察」です。次に、朝顔は朝に花が咲くんだと法則性を見つけることが「考察」。
じゃあ、他の花はいつ咲くのかな? と、見つけたルールの転用先を探すのが「推察」で、目の前に起きている事象とまったく違うことを発見するのが「洞察」です。
茂野 具体的にはどういうことでしょうか?
須藤 花が咲くのは、虫や風に花粉を媒介してもらうためですよね。でも朝に飛ぶ虫は少ないじゃないですか。じゃあ、朝に咲く朝顔は虫を必要としないのではないか? と気づくことが、それにあたります。
実際に朝顔は、花が開くときにおしべがめしべに触れて自家受粉するので、虫の媒介を必要としないんです。
茂野 なるほど。かなり視点を高めないと、そこまでは気づけませんね。
須藤 たしかに簡単ではありませんが、これを今回のコロナに当てはめて考えてみましょう。
コロナウイルスに関する社会の状況を「緊急事態宣言(赤)→自粛緩和(黄)→緊急事態宣言解除(緑)」と考えると、今は黄色から緑に移行する段階です。
さいわい、日本より他国のほうが早くに自粛を緩和しはじめました。どんな業種が早く回復するか、他国をよく「観察」して、次の打ち手を考えればいいんです。
あくまで僕の予想ですが、おおむねこんな感じでしょう。
旅行関係でいえば、日帰り旅行の回復は比較的早いでしょうが、宿泊をともなう旅や団体旅行、海外旅行の回復は遅くなりそうです。
飲食なら大人数の宴会はしばらく難しいでしょうが、家族や友人など、「特定少数」の会食は少しずつ戻ってくるでしょう。
また、何かイベントをするにも「理由」が立たないと難しい。プライベートなものは個人の判断ですが、企業が大きなイベントをオフィシャルに開催するには、何かあったときのことを考えるとかなり勇気が必要です。
そしてキャンプなど屋外空間のレジャーが好まれるようになり、人が密集し、密閉される映画館などが“コロナ前”に戻るには、しばらく時間がかかるでしょう。
このように区切ると「それなら近距離圏で特定少数に向けた、プライベートなイベントなら開催できるんじゃないか」と考えられます。ターゲットを選定すると、次のアクションがおのずと見えてくるんです。
茂野 こういうピンチに見舞われると、つい「HOW(どうすればよいか)」で考えがちですが、ちゃんと立ち止まって見直そうということですね。
須藤 「いま営業に来られても困る」という会社も多いはずですから、顧客側の都合や事情を、きちんと観察しなければいけません。
大切なのはターゲットとタイミング、この2つのかけ算です。
コロナ時代は、弱肉強食時代?
茂野 ではコロナ時代に強い組織づくりとは、どういうものでしょうか。今までとは違う柔軟な考え方が求められると思いますが。
須藤 現代は「VUCA時代」と言われるように不確実性の高い時代ですから、組織のアジリティ(機敏さ)を高める必要があるのは、コロナに限ったことではありません。
今までAに向かっていた組織がBへの方向転換を迫られたとき、Bへ向かう時間が短いことが大事だということです。
そして今回のコロナに関していえば、マネジメントの難易度が一気に上がって頭を抱えています。
茂野 どの点が難しくなったのでしょうか。
須藤 在宅勤務をせざるを得なくなり、業績がメンバー個人のパフォーマンスにめちゃくちゃ依存するようになったんです。
スキルの高い人は環境変化の影響を受けておらず、むしろ顧客も自宅にいるので「今のほうがアポ取れます」というほどです。
一方で、スキルがさほど高くないメンバーは、まったく成果が上がりません。
茂野 上司が同じ空間でサポートできませんからね。
須藤 できる人とそうでない人の差が如実に表れてしまい、これをどうマネジメントするか。悩んでいますが、まだ答えは見つかっていません。
栗原 それを聞いて、オンライン教育の話を思い出しました。
授業をオンライン化した場合、偏差値が65以上ある生徒は、周りを気にすることなく自分のペースで勝手にどんどん学ぶそうです。しかし偏差値50~60弱くらいの生徒は、自分で学習できる子とできない子に二極化してしまうというんです。
ですから今後、教師の役割は教えることから、学習をサポートするボトムアップ型になるんじゃないかという予想を聞いたことがあります。須藤さんの話は、これに重なるところがありますね。
須藤 僕も、教育はそうすべきだと思います。ただ経営において、ボトムアップのためにマネジメントコストをかけるのは、ちょっと厳しいものがありませんか?
栗原 財務力のある大企業ならできるでしょうが、一般の企業は難しそうですね。
須藤 個人には本当に厳しい、弱肉強食の時代になりそうです。なんだか、『北斗の拳』のような世紀末感が漂ってきた……。
茂野 そんな殺伐とした社会になるのは嫌ですね。離れていても助け合える方法がないか、知恵を絞らないと。
須藤 今回のコロナはかなり特殊とはいえ、リーマンショックや大震災など、何かしらショックの大きい事態が約10年に一度は起きています。
もちろん、組織づくりも必要です。でも何よりもまず、一人ひとりが「これからも何かしらの非常事態が数年おきにやってくる」と自覚し、変化への対応力を高めることが大切ではないでしょうか。
採用もマーケも同じ、「ターゲットを理解する」をきちんと行うこと
茂野 『北斗の拳』のような世界は望まないとはいえ、企業としてはいい人材がほしいものです。求める人材を採用するために、何かハックできることはありますか。
須藤 求人倍率は下がっているので、単純にいえば転職市場はシビアになっています。でも裏を返せば、このタイミングでも動く人は、いい人材であるとも考えられる。
ただ難しいのは、どういう人材をどの順番に採用するかの判断です。どの企業も、コロナのビフォーアフターで優先すべきことの順序は変わるはずですから。
また、採用でオンライン面接を何度か行いましたが、なかなかリアルと同じようにはいかないと感じています。
茂野 五感の視覚と聴覚以外は閉ざされますからね。
須藤 とくに新卒採用では、ウェブカメラの向こうに面接のカンペを貼って答える学生もいるそうですから、こっちも何で見極めたらいいかわからない(笑)。
茂野 学生と企業が、互いにハックし合っている(笑)。
「いい人材を採用するには、採用マーケティングが重要だ」とよく言われますが、マーケティング専門の栗原さんは、どうお考えですか。
栗原 採用マーケティングも一般のマーケティングも、もっとも大事なのはターゲット顧客を理解することです。しかし、そんな当たり前をきちんと行っている企業は、意外に多くありません。
実は僕自身、それを痛感する出来事がありました。先日、自社で中途採用に注力することになったので、ペルソナ(典型的な人材像)を設定しようとしたんです。
そこでふと気づいたんです。僕には転職経験がないばかりか、転職を一度も検討しないまま起業したので、転職を考える人の気持ちがわからないと。
そこで、転職を経験した社内のメンバーに「転職で何を気にするか」「どこで情報収集するか」「転職したいと思ってから、どれくらいの期間で新しい会社に入るか」などを聞き、ようやく転職希望者の気持ちを細かく理解できました。
もし途中で気づかなければ、僕はあやうく自分の妄想だけで、ペルソナやカスタマージャーニー(転職希望者の動き)を作るところだった。「ああ、こうやって失敗するんだ」と身に沁みましたね(笑)。
オンライン時代の「訪問営業」の役割とは?
茂野 緊急事態宣言が解除されても、今回を機に社会のオンライン化は進むでしょう。そうなると「首都圏/地方都市」などという、距離の概念は変わると思いますか。
栗原 ビフォアコロナではリアルで会うことが前提で、展示会やセミナーを開催すると、東京の人は来てくれるけれど、例えば静岡の人はなかなか来てくれない。だから自然に「首都圏とそれ以外」と考えがちでした。
しかしオンライン社会になれば、今まで首都圏外に情報を広めにくかった要因である、アクセスコスト(交通費・時間)が格段に低くなります。そうするとターゲットが首都圏から全国、うまくいけばグローバルにも広がる可能性が大いに期待できます。
茂野 では、敢えて訪問して営業をすることに、どのような価値が残るでしょうか。
須藤 リアルに会うほうが、オンラインより早く関係が築けるでしょうね。とくに「この人は信頼できる」という肌感覚は会ってこそだし、得られる情報量が違いますから。
茂野 時間を短縮するために訪問するとは、今までと逆の発想ですね。栗原さんはいかがですか。
栗原 訪問営業については随分前から議論されていて、アメリカの調査会社は2012年に「大半の購買担当者は、営業に相談するより自分で情報を調べ、オンラインで購入したいと思っている」と報告しています。
一方で、「価格交渉、複雑な契約のやりとり、商品が高額な場合は営業と話したい」とあります。オンライン時代では、顧客のコンサルティングができて購買までナビゲートする役割が営業メンバーに求められるでしょう。
これはすでに8年前のレポートですし、今日話題に上がった「顧客を知る」「順番が大事」なども目新しいものではなく、マーケティングの王道です。つまり変化が迫られる今だからこそ、「当たり前」をいかに愚直にやれるかが試されているんだと思います。
茂野 コロナ禍で、見直すチャンスが強制的に与えられたということですね。お二人とも、今日はありがとうございました。
◎ゲストプロフィール
茂野 明彦さん
株式会社ビズリーチ HRMOS事業部 インサイドセールス部 部長
大手インテリア商社を経て、2012年、外資系IT企業に入社。世界で初のインサイドセールス(IS)企画トレーニング部門の立ち上げに携わる。2016年、ビズリーチ入社。インサイドセールス部門の立ち上げ、ビジネスマーケティング部部長を経て、現在はHRMOS事業部インサイドセールス部部長を務める。@insidesales_job
栗原 康太さん
株式会社才流 代表取締役社長
2011年にIT系上場企業に入社し、BtoBマーケティング支援事業を立ち上げ。事業部長、経営会議メンバーを歴任。2016年に「才能を流通させる」をミッションに株式会社才流を設立。アドテック東京などのカンファレンスでの登壇、宣伝会議・広報会議など主要業界紙での執筆、取材実績多数。@kotakurihara
須藤 憲司
株式会社Kaizen Platform 代表取締役
2003年に早稲田大学を卒業後、リクルートに入社。同社のマーケティング部門、新規事業開発部門を経て、リクルートマーケティングパートナーズ執行役員として活躍。その後、2013年にKaizen Platformを米国で創業。現在は日米2拠点で事業を展開。企業のDXを支援する「KAIZEN DX」とUX改善サービス群の「KAIZEN UX」を提供。
著書:「90日で成果をだす DX入門」(日本経済新聞出版社)、「ハック思考〜最短最速で世界が変わる方法論〜」 (NewsPicks Book) @sudoken
(文:合楽仁美、編集:Kaizen Platform公式note)