行き先不明の豪華な船、行き先が書かれた小さな船。乗りたいのはどちらか
田中安人さんインタビュー第2話(全3話)
「世界をKaizenする」をミッションに事業を展開しているKaizen Platformがお届けする「世界をKaizenしている人」に注目した本連載。
吉野家CMOの田中安人さんへのインタビュー第1話では、「今の時代のリーダーがすべきことは、明確なビジョンを掲げて適切な目標を設定すること」というお話が出ました。
第2話のテーマは「成長する組織のつくりかた」。
明確なビジョンを掲げることで組織にどのような変化が起こるのかを具体的にうかがいました。
行き先がわからない船には誰も乗らない
横堀:
第1話で出てきた「組織のリーダーは明確なビジョンを掲げなければいけない」というのはよくわかるのですが、ビジョンを明確にすることで組織はどのように変わっていくのでしょうか?
田中さん:
ビジョンとは「組織が目指すもの」。ビジョンを明確にすると、ビジョンに共鳴する人が集まってくるはずなんです。その人は自分がやりたいこと、興味があることをやるためにその組織に入ったのだから主体的に行動しますね。当然、目の前にある作業のすべてが目標達成につながるわけですから、ストレスを感じることなく夢中になって取り組みます。これがすごく大事なんです。
横堀:
「やらされている」のではなく、「やりたいからやる」というのは何かを達成する大きな原動力になりますよね。
田中さん:
そうです。「やりたいからやる」という人が集まった組織はどんどん成長します。
雇用条件がいいはずなのに、経営者のかたが「優秀な人材が集まらない」「入ってもすぐに辞めてしまう」と嘆いていることがあります。そういう会社はビジョンがはっきりしていないことが多い。例えるなら、行き先の書いていない船みたいなものです。どんなに客室が豪華な船だとしても、どこに行くかわからない船には誰も乗りませんよね。でも、目的地が書いてあって自分も行きたい場所だったら、どうです?
横堀:
ボロボロの船でも乗りたくなりますね。
田中さん:
ですよね。設備も船員も満足じゃなかったとしても、「俺は調理が得意だから、乗せてくれたらキッチンスタッフやります!」といろんな人が乗ってきますよね。すごい人や変わり者が集まってくるかもしれません。僕はこれが組織の目指すべき正しい姿だと思っています。リーダーは、自分たちの船がどの港を目指すのかを明確にしたほうがいい。それが定まれば、価値観が合致した優秀な人材が自然と集まるはずなんです。
横堀:
でも、組織の中には目的地がよくわらかないビジョンを掲げているところもありますよね。見当違いのビジョンというか…。
田中さん:
ありますね。例えば、「顧客第一主義」とか。高度経済成長期はそれで成長できていたけれど、今の低成長時代に「顧客第一主義」というのはビジョンでもなんでもないんです。実はこれに気づいている人は多いんですが、みなさん「どうしたらいいかわからない」んです。ほかには「イノベーションの種を探す」とか「とにかくデジタル化をする」とかも、具体的な「何か」がわからないのでビジョンとは言えません。
横堀:
自分たちが目指すものをまず考えることが必要なんですね。
田中さん:
組織づくりって、夢を考え続けることから始まるんです。最初はモノクロだった夢が、自分たちが持つ強みやサービスで世の中の誰をどんなふうに喜ばせたいのかを考え続けるうちに、だんだんと色づいてくるんです。必要なモノや人は何か、具体的にどうすればが浮かんでくると思います。そして、自分たちが持つ資産や強みを発見し磨き上げて、ビジョンと自社の強み(資産)を結んだ線が行動計画になります。この時点で夢を実現する道筋が見えてくるはずです。逆を言えば、優秀な人材を獲得できていない事実があるということは、自社のビジョンがあいまいで求心力が弱いということ。リーダーは早くそれに気がついたほうがいいと思います。
自社にとっての「優秀な人材」を定義する
横堀:
私は前職で人材系の仕事に携わっていました。経営者や人事のかたと採用の話をすることが多かったのですが、私たちが「どんな人材を求めているのですか?」と聞くと、「とにかく優秀な人材がほしい」と答える企業が結構あったんですね。でも、そういった企業ほど採用が上手くいっていませんでした。
田中さん:
「優秀な人材」といっても、企業ごとに求められるマインドやスキルは異なります。自社にとっての「優秀な人材」の定義をしっかりと決めなければならないですね。
横堀:
どういう優秀さを求めているのかを言語化しないといけないと思いますね。言語化できている企業はいい人材を獲得できていました。
田中さん:
企業としてのビジョンがなく、どういう人材を求めているかが明確ではないのに、上司から「きみはスキルがない」と言われても困りますよね。「なぜそう言われるのか」、「何が足りないのか」がわかりません。ビジョンのあいまいさは人材のミスマッチ、働く人のモチベーションや組織力の低下を招きます。
例えば、リッツカールトンがなぜ世界最高のサービスを提供できているのか。「リッツカールトンマン」という定義を明確にして、その定義に合致する人を採用しているからです。これがもし、単に学歴が高い人だけを採用していたら最高のサービスは提供できないでしょう。
横堀:
組織に所属する一人ひとりも、「何のために働くのか」「自分はどうなりたいか」を常に考えることが大切ですよね。やりたいからやる人は、仕事のための仕事をやっている人よりも成長のスピードが速いというのは、Kaizen Platformでの日々の業務を通して私も実感しています。
上下があるところに良い組織は生まれない
横堀:
田中さんはさまざま組織で活躍されていますが、ご自身ではチームづくりにおいてどんなことを意識しているんですか?
田中さん:
3つあります。まず、多様性とダイバーシティです。異なる視点、異なるモノを受け入れるチーム。
2つ目は、フラット化で上下の関係を作らないこと。そのため、チームのメンバーには僕のことを役職ではなく「田中さん」と呼んでもらっています。日本語には「上司」「部下」という言葉がありますが、普段から役職で呼んでいると部下が上司に対して萎縮して発言できなくなってしまうケースが出てしまうんです。
横堀:
毎日のように「部長」と呼んでいると、無意識のうちに関係性がすり込まれてしまいますよね。その結果、「上が決めたことをやっていればいい」となってしまう。
田中さん:
そうなんです。上下があるところに良い組織は生まれません。逆に言えば、「田中さん」とみんなから呼んでもらうだけでフラットな関係を築けます。
横堀:
なるほど。3つ目は?
田中さん:
愛と尊敬(リスペクト)です。愛を持って育成し尊敬の念を持って対処する。そうすることでチームメンバーは組織を好きになって、メンバーに対して尊敬の念を持つ。このようなチームです。
つまり僕がやっていることは、ビジョンはこれだよと示して、メンバーの能力を見極めてチーム編成をし、適切な課題と権限を渡しているだけなんです。これで目指しているのは「自立型学習組織」なんです。
Kaizen Platformは、デジタルトランスフォーメーションの専門家集団です。ご相談は、こちらからお気軽にどうぞ!