【箕輪厚介×須藤憲司】「普通の便所サンダルをどう完売させる?」『死ぬカス』と『ハック思考』から学ぶ、令和の仕事術
今週3/18(水)発売、KaizenPlatform須藤の著書「ハック思考」。今回は出版を記念し、担当編集の箕輪厚介さんと対談を行いました。
テーマは「『死ぬこと以外かすり傷』と『ハック思考』から学ぶ、令和時代の仕事術」です。
「死ぬこと以外かすり傷」(以下、死ぬカス)は、天才編集者とも呼ばれる自身の仕事術にスポットをあてた箕輪さん初の著書。「ハック思考」もビジネスで劇的に成果を上げるための実践的ノウハウが紹介されています。
ともにビジネス書を刊行する二人が語る、これからのビジネスパーソンが備えるベき術とは?
本記事は、2020年2月7日渋谷ストリームで開催されたKaizenPlatform主催イベント『DX Drive 2020』でのセッション内容をまとめたものです。
『死ぬカス』と『ハック思考』、対照的なふたりの著書
須藤 箕輪さんと対談するのに、スーツだと不釣り合いだと思ってTシャツに着替えてきました(笑)。
箕輪 いや、ほんとに。普段、僕が登壇するイベントは個人向けがほとんどなので、今日のようにスーツを着た方がたくさんいる場は、ちょっと緊張します。
須藤 箕輪さんには、3/18に発売予定の拙著『ハック思考』の編集を担当してもらいました。そして箕輪さんご自身にも、著書『死ぬこと以外かすり傷』があります。
箕輪 『死ぬカス』はマインドセットについて述べていますが、『ハック思考』は具体的な事例を入れた実践的な構成になっているので、この2つは対照的ですね。
須藤 そうかもしれませんね。
「ハック思考」という言葉に馴染みの薄い方もいらっしゃると思いますが、「ハック」とは同じインプットから大きな成果を得られるよう、転換効率を劇的に高めることをいいます。ハックする人は「ハッカー」、そうしたマインドで物事を考えることが「ハック思考」です。
ハック思考では「現状のものをよく観察し、他の人が気づかない規則性や法則を見つけ」、「その規則性や法則を構成するシステムの隙間に介入する」の2ステップで、業務やシステムを改善していきます。
箕輪 僕がいいなと思うのは、ハック思考を身につけていると、何か深刻な問題に直面しても「問題」が「お題」に変わることです。
須藤 「これ、どう解こうかな?」とすべてが大喜利になります。
箕輪 そう、ポジティブに世界を見ることができる。僕自身、この本から得た知恵をめちゃくちゃ活用しています。
須藤 そういえば、箕輪さんのオンラインサロン「箕輪編集室」でサンダルを作ったときもそうでしたね。
箕輪 サロン内に、「つっかけや」いわゆる「便所サンダル」を作る家業を継いだメンバーがいて、サロンのグッズ「ミノサン(箕輪編集室のサンダル)」を作りました。
青、白、黒、黄色の4色で各色40足ずつ、原価は全部で約13万円かかったんですけど、「ミノサン」とプリントされたデザインは、はっきり言ってダサい。
「ミノサン(黄)」、箕輪書店
これを赤字にせずに売るにはどうしたものかと須藤さんに相談したら、「赤、白、黒と3色展開されているスニーカーのうち、黒だけ500円高いと、なぜか黒から売れていくんですよ」と言われて、なるほどと思いました。
そこで、とくにダサい黄色を原価の13万円で売る。希少価値を持たせるために売るのは1足だけで、残り39足は出さない。原価はこれで回収できるので、あとの青、白、黒は1足100円で販売することにしました。「13万円で買ってくれる人がいるから、他の人が100円で買える」というコミュニティの実験です。
このアイデアを、須藤さんとの打ち合わせの帰り道にスマホからサロンに指示を出すと、数時間後には販売が始まり、黄色も含めて無事、その日のうちに完売しました。
須藤 一日限りのお祭りでしたね。
箕輪 こんなふうに仕事の枠を超えて、須藤さんのハック思考には個人的にもお世話になっています(笑)。
先に宣言して、後で調整すればいい
須藤 僕がいつも感心するのは、箕輪さんはめちゃくちゃ忙しいはずなのに、いつもメールの返信が早いことです。
ミノサンの件を相談された後、いくつか会議が入っていました。それらが終わって「あの件、どうするのかな」とスマホを見たらもう完売していたんですから、その行動力には驚かされました。
今思い出したんですけど、箕輪さんは、本田圭佑さんのサッカーチーム「ONE TOKYO」の選手でもありますよね。あれもたしか、箕輪さんの行動の早さがあってこそのことだったと聞きました。
箕輪 あれ、めちゃくちゃ恥ずかしいんですよ。元プロや、プロを目指す大学生たちが応募する本気のチームなんですが、彼らと一緒にトライアウトを受けさせられ、圧倒的に下手なのに合格してしまった。
須藤 箕輪さんのサッカーは、あくまでも趣味レベルですもんね(笑)。
箕輪 それなのになぜ合格したかというと、申し込んだのが一番早かったから。ある日、本田さんから「箕輪さん、本気ですか」とLINEが来て、本気じゃないと思われるのも悔しかったから「本気です」と答えたら「じゃあ合格です」って。
チームが募集開始前に「最初に申し込んでくれた人を大事にしよう」と話していたら、それが僕だったというわけ。セミプロレベルの選手を差し置いて一番乗りだったことは、さすがに自分でも「俺、どれだけ暇なんだ」と恥ずかしかったです(笑)。
須藤 (箕輪氏の勤務先・幻冬舎社長の)見城さんへの報告はどうしたんですか?
箕輪 チームへの加入が決まった後です。「本も本気で作りますが、サッカー選手になります」とLINEをしたら、「本を頑張ってくれるなら大丈夫です」と返信がありました。
須藤 見城さんも意味がわからないでしょうね(笑)。箕輪さんは今回のように、よく新しい領域に飛び込んでいますが、意識的にそうしているんですか?
箕輪 実は、そうでもないんです。たとえば今回のような募集要項には、「練習は週〇回」「〇月〇日にトライアウトを実施」といろいろ書いてあるじゃないですか。
みんな仕事や学校があるから、ほとんどの人は条件と折り合いをつけるために家族や上司に相談する。だから最低でも、応募するのが1日は後ろ倒しになるんです。
けれど僕は何も気にせず、見て面白そうと思った瞬間に「やる」と言っちゃうだけです。そういうタイプだということ自体、今回の件で改めて気づいたんですけど(笑)。
須藤 先に宣言して、後で調整するんですね。
箕輪 調整できなかったら「仕方ない、縁がなかったな」くらいの感じです。もし、上司に許可を得ようとしたのに会議中で上司がつかまらず、その間に申し込みが終わったら後悔するじゃないですか。
須藤 そうですね。「こうしたらいいんですね」という人と、「こうしちゃったんです」という人は似ているようで、二者の間には大きな壁があります。変わりたいと思ったときにすぐ一歩を踏み出せるかどうかで、ほとんどが決まってしまう。
箕輪さんがサンダルの相談をしてきたときも、すでに「サンダルが今日にも届くんですけど、どうしたらいいでしょう」でしたからね(笑)。
中と外が一緒に動けば、革命は起こる
箕輪 行動力とハック思考の両方を持ち合わせていれば最高ですが、そんな人は滅多にいないでしょうから、行動力のある人とハック思考を持った人がコンビを組めるといいですね。須藤さんと僕みたいに(笑)。
須藤さんのハッカー的な思考法は、昔からなんですか?
須藤 うーん、どうでしょうか。ただ、いろいろなケースを見て感じるのは、当たり前のことをしても、当たり前の結果しか返ってこないということです。
「問い」に対して「答え」を出す。受験の世界では、その正解率が高い人を優秀とし、選抜します。でも、それをずっとやってきた結果、今の日本は停滞している。ということは、「問い」の立て方をそもそも変えたほうがいいんじゃないかと疑うようになったんです。
これは『ハック思考』でも紹介している有名な事例ですが、ある古いビルでは、エレベーターがボタンを押しても全然来ないとたくさんのクレームが寄せられていました。しかし、最新のエレベーターに変える予算はない。
対策をあれこれ議論した結果、苦肉の策でエレベーターホールに鏡を設置したところ、待ち時間は変わらないのにクレームがゼロになった。みんな鏡を見て身だしなみをチェックするので、待ち時間を埋めることができたのです。
箕輪 つまり、「エレベーターが来ない」というクレームに正面から向き合うと「みんな早くオフィスに行きたいんだ」ととらえがちですが、本当は「何もせずに待っている時間が嫌」だった、ということですね。
須藤 ええ。「問い」をきちんと特定できれば、お金をかけなくても改善できることがあるという好例です。
それに正攻法で変わろうとしても、100%変われません。なぜなら今のシステムは、現状に最適化されているから。
箕輪 インセンティブ設計が今の仕組みの上にある人も多いですし。
須藤 日本の歴史を振り返ると、これまで反体制派による革命が成就したことはありません。では日本がどのように変わってきたかというと、旧体制の人と新体制の人がお互いに力を合わせて扉を開けてきたのです。
その典型が明治維新です。幕府側の勝海舟と、外から日本を変えたい西郷隆盛や坂本龍馬が手を携えたからこそ、日本は新しい時代に動き出した。
箕輪 わかりやすい例えですね。そもそも、中にいると自分たちのルールがずれていることに気づけないし、気づいたとしても、中から発言すると自分の立場が危うくなりかねない。
須藤 ですから自分たちの組織を変えたければ、外の人と一緒に動けばいいんです。
箕輪 「この人となら一緒にやれそうだ」というハッカーを探してくるのが大事ですね。ちなみに、優秀なハッカーとはどんな人ですか。
須藤 最初に抱いた違和感やインスピレーションを大事にできる人でしょうか。優秀なハッカーはみんな口を揃えて「詳しくなると疑問に思わなくなるから、『何これ』と思った瞬間にやる」と言います。
箕輪 じゃあハッカーは、扱う業種をどんどん変えていったほうがいいと。
須藤 素人こそ最強なんです。箕輪さんは編集のプロですけど、サンダルを売ったりサッカーをしたりしているのは、ハック思考を養うのにうってつけかもしれません。
箕輪 そうか! サッカーをすると、死ぬんじゃないかと思うほどきついんです。でもその後だと、あれだけ嫌だと思っていた仕事がちょっと楽しくなる。「俺、やっぱり編集が向いてるわ」って(笑)。
須藤 ジャンルを越境することで相対化されて、自分の向き不向きもわかりますね(笑)。
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<文= 合楽仁美、撮影=高澤梨緒>