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データをめぐる冷戦

『DXプレイブック』は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の専門家集団 Kaizen Platformの須藤による解説シリーズ。loT、サブスクリプション、AI、D2C、OMO、MaaSなどをキーワードに「DXとは?」を考えるDXの入門書です。

こんにちは! Kaizen Platformの須藤です!

テック企業の多くが、データ収集と解析を競争優位戦略に据えていることは前回、お話しました。データは“21世紀の石油”と言われ、争奪戦が展開されています。その資源をめぐってプラットフォーマーと利用企業、そして企業対国家のレイヤーでせめぎ合い、いわば冷戦が起きているのが現代です。今回は、概況を解説したいと思います。

プラットフォーマー対利用企業:Apple社が推進するITP

DX プレイブック (3)

データの適切な利用は、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)などプラットフォーマーにとってセンシティブな問題です。たとえ違法でなくともユーザが不審に思う活用は避けていかなくてはいけません。ユーザに心地よく、安心感を持ってプラットフォームを利用してもらってはじめてデータ収集ができるからです。

近年、Apple社のWebブラウザSafariには、ITPという機能が搭載されています。ITPとは Intelligent Tracking Preventionの略で、サイトをまたいでユーザを追跡する技術を制限する機能です。

従来は、ユーザが訪れたサイトドメイン以外のサードバーティCookieを読み込ませることで、ドメインを超えて行動を把握することができました。その仕組みを利用すれば、ユーザの興味に沿った広告配信などが可能だったのです。

しかし、Appleはその慣習にノーをつきつけました。ユーザのプライバシー保護を目的とし、Apple社が自主的に規制を行ってる格好です。順次強化される規制に対し、利用企業はさまざまな対応を迫られています。プラットフォーマーとその利用企業間でのデータ利活用をめぐる争いとも言えるのです。

国家対プラットフォーマー:EU域内でのGDPR施行

DX プレイブック (2)

そういった動きは、国家と企業レイヤーにおいても顕在化しています。2018年、プラットフォーマーが取得する個人データを、民衆のコントロール下におくことを目的にEU一般データ保護規則が制定されました。通称、GDPRとよばれています。

EU居住者のデータ収集であれば、EU域外に籍を置くプラットフォーマーも規制の対象です。データの取得に際し、利用目的の明示的な合意取得などが義務づけられます。欧州経済領域(EEA)内で取得した個人データを域外に移転することも原則禁止にしています。

たとえば、日本本社のウェブサイトで EEA所在者に対して商品・サービス(鉄道切符、航空券、パ ッケージ旅行など)を販売する企業は、本社に対して GDPRが直接、適用され得ることに注意が必要である。※1

フランスではGoogleに対し60億円を超える罰金を課すことを発表しています。集めたユーザデータの処理目的や保管期間に対する方針を、ユーザが分かりやすい箇所に示しておらず透明性に対する義務を果たしていないという指摘です。このような動きはITP同様にユーザのプライバシー保護を第一義において、EUが米系グローバルテック企業の勢いを抑制する構造となっています。

ルールは、ヒト、モノ、カネ+データに

従来はヒト、モノ、カネの3要素、とくに人口が大きく国力を決定づけていました。そのルールに影響を及ぼしうるのがデータであると言えるのではないでしょうか。グローバルプラットフォーマーは国境を越えてサービス提供を行い、世界中のデータを低コストで集約していっています。

かつて中国はグレートファイアウォールという検閲制度でグローバルサービスを締め出しながら、alibabaやBaidu、WeChatなどドメスティックなスタートアップを育ててきました。国家施策として戦略的にIT分野を急成長させました。その中国でも今回ご紹介したEUのGDPR同様の法律が、サイバーセキュリティ法として施行されています。

このように外部勢力や異なるレイヤーを牽制しながら、どのようなエコシステムを構築していけるかが目下の国際課題となっています。これはデジタルというあらゆる物理的制限を超越する進化が、地理的線引きによって成立していた主権国家体制に再編集を迫っている動きと言えるのではないでしょうか。

※1
「EU 一般データ保護規則(GDPR)」 に関わる実務ハンドブック(入門編)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/dcfcebc8265a8943/20160084.pdf

今後もDXの考え方や中国・アメリカをはじめとした海外の情報・事例を配信していきますので、Kaizen Platform公式noteのフォローをぜひお願いします!

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