ウィズコロナを前提に考えるOMOによるユーザー体験設計
『DXプレイブック』は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の専門家集団 Kaizen Platformの須藤による解説シリーズ。loT、サブスクリプション、AI、D2C、OMO、MaaSなどをキーワードに「DXとは?」を考えるDXの入門書です。
モバイルでオーダーし、店舗で受け取る
スマートフォンで事前に注文しそのままお店で受けとるモバイルオーダーを使ったことはありますか。マクドナルドやスターバックスでも採用されていて、レジ前の行列そしてユーザのストレス解消に役立っています。
最近では事前決済のみに対応したお店も現れています。たとえば「TOUCH-AND-GO-COFFEE」はLINEで事前決済し、ロッカーでパーソナライズされたコーヒーを受けとれるお店です。現在では、行列を避けるためにも活用されています。
中国はそういったOMOの進化がもっとも進んでいる国です。レストランのテーブルにあるQRコードを読み取ると、スマホにメニューが現れ注文でき、食後に終了ボタンを押せば自動でWechatペイで会計されそのまま退店できる。そんなお店が中国にはあります。
近年、このようなオンラインテクノロジーを活用したお店をニューリテールといい、その体験設計の根底にあるコンセプトをOMOといいます。
OMOはユーザ体験を考える上で必須
OMOは書籍『アフターデジタル』(藤井保文、尾原和啓、日経BP)のなかでいまビジネスを行うアフターデジタル時代における成功企業が共通で持っている思考法だと記されています。具体的にはどのような考え方なのでしょうか。
OMOはOnline Merges with Offlineの略で、オンラインの中に(かつて)オフライン(だったリアル)が統合されるという意味。リアルでも常にオンライン状態であることを前提に、ユーザ体験を設計していく考え方です。
これまではオンラインとリアル(=オフライン)を分けて捉え、いかにスムーズに繋げていくかという仕組みづくりに多くの企業が尽力していました。ネットを通じて実店舗に来店を促す仕掛けをO2Oと言いましたが、OMOはその考えをアップデートした思考法と言えます。
たとえば先日ご紹介した「金融」の考え方は、OMO的な思考でユーザ体験を設計する上で欠かせない要素のひとつになってきます。
金融がFintechとしてアンバンドル化し進化していくと、やがて「見えないもの」になっていくと考えています。様々な事業のトランザクションの隙間に入り込み、ひとの意識が及ばないところで機能するものになっていくのです。(引用:前回記事)
金融を「見えないもの」にできるのはオンラインであることが大前提ですし、その機能をリアルでも活用していくことはまさにOMO的であると言えます。具体的な事例をご紹介していきましょう。
なぜアリババはクルマの自動販売機をつくれたのか?
アリババ社(中国)は「自動車の自動販売機」というコンセプトを発表しています。信用スコアと顔認証で即時にローン審査を行い、その場でクルマを持って帰ってもらう仕組みです。オンライン前提のリアルな場所だからこそ実現できるスムーズなユーザ体験です。
一方で同社は2018年、アルファロメオが中国進出の際に用意した350台の自動車をEC経由でたったの33秒で売り切りました。
アリババは、自社のECサイトを頻繁に利用する約5億人のアクティブユーザーを対象に、その購買履歴やサイト上の行動履歴といったデータをまず分析し、「外車に対して感度の高そうなユーザー」「過去にイタリアブランドに興味を示したユーザー」といった複数のカテゴリーで潜在的なユーザー層を抽出。(中略)このメールを開封するなど一定の反応を示したユーザーに対して、アルファロメオのクルマの魅力を動画で分かりやすく示したビデオ付きメールを定期的に送り続けたのだ。(中略)そうして下地を作っておいて、ECサイトでの発売開始直前に、「先着した方は特別価格で販売」という趣旨のメールを送ったのだ。
(引用:「アルファロメオ350台33秒で完売 アリババのすごみ」、日本経済新聞)
先ほどの自動販売機のコンセプト然り、アルファロメオのニュース然り、これらの体験を支える要諦はオン・オフラインを問わない一貫したデータ収集とその利活用、そして、ユーザにとって最適な購買出口を設計することです。
私たちは、モノをスマホで買って家で受け取りたいときもあればリアル店舗で試して購入したいこともあります。その時は、レジに並ぶのではなくスマホで決済完了したしたいかもしれません。
OMO的な思想でユーザ体験を設計するときには、店舗も自動販売機もレジもスマホ同様ひとつのインターフェイスになるのです。Amazon社のレジ無しコンビニ「Amazon Go」も同様の思想に基づき、設計されたのではないでしょうか。
これらリアルな場所での購買体験データは、ECにもフィードバックされているはずです。店舗もオンラインを前提としたインターフェイスと捉えれば、まるでウェブページのように細かいデータトラッキングを行うこともテクノロジーで可能になります。買わずにレジに戻したものや、私たちの表情や視線の動きも重要なデータになりえます。
OMOでユーザ体験を刷新しよう
「TOUCH-AND-GO-COFFEE」のようにモバイル決済に特化したリアル店舗は、その決済の手軽さが核心ではないと思います。それによって全ての注文データがトラッキングできるため、提供商品をパーソナライズしていくことができる。きわめてD2C的な考えに基づいていると言えます。しかもそれを来店までの空き時間を活用することができる。
新型コロナの影響が長期化する可能性も視野に入って来ている中、このようにOMOというコンセプトで顧客体験を捉えなおすことは、事業をDXし再設計する上で非常に重要です。オンラインであることを前提に、あらゆるものがユーザインターフェイスになるという視点が新型コロナを乗り越えていく一つのヒントになるのではないでしょうか?
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