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コロナショック後の世界で何が生まれるか【大柴ひさみ×佐々木紀彦×須藤憲司】【後編】

3月19日にオンラインで行われた『DX人材養成講座』のプレイベント。

前編では大柴ひさみさんにアメリカにおけるZ世代とミレニアルズの消費行動について伺いました。後編では、NewsPicks取締役の佐々木紀彦さんを交え、引き続き大柴ひさみさんと、須藤により「コロナショック後の世界」について対談が行われました。

※なお、本セミナーは3月19日(日本時間)に行われたもので、コロナウィルスなどに関する情報はその時点での情報であることをご了承ください。

アメリカの問題があぶり出されるコロナショック

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須藤:日本では小康状態をなんとか保っているコロナウイルスですが(3月19日時点)、アメリカではどのような状況ですか?

大柴:今週、最も危機意識が高まったと考えています。緊急事態宣言も出ました。ニューヨークやサンフランシスコ、ベイエリアなど海岸沿いの州で感染者が急増し、ワシントンでも続々と感染者が増えています。集会は禁止され、レストランなども軒並み営業禁止となりました。

私が住んでいるのはラスベガスから車で1時間ほどのところにあるユタ州のセントジョージというカントリーサイドにある街ということもあって、感染者はそれほど増えていません。ただ、10人以上の集会は禁止とか、不要不急の外出はやめるようにという要請が出ています(※以上すべて日本時間3月19日時点の情報)。

日本同様、トイレットペーパーなど日用品や食料品などがスーパーマーケットの棚から一斉に消えました。

トランプ政権をはじめとする共和党は、コロナウィルスを当初軽視していたんです。2月の時点では、「このウイルスはインフルエンザと同じようなものだから、すぐに収束する。不安を煽っているのは民主党の企みだ」とすら言っていたんです。共和党支持者に対して、「安心してレストランへ行って仲間との時間を楽しみ、日々をエンジョイしてください」なんて煽ったくらいなんですよ。

だけど、ここに来てようやくトランプ大統領もことの重大さに気づいて、自宅にいるように要請しはじめました。つまり、このコロナウィルスの騒動を自分の選挙を有利にするためのポジショントークとしてきたことのツケが回ってきたわけです。

特にトランプ大統領の支持者の多くは65歳以上の高齢層。彼らがトランプ政権を支えていたのに、その支持者たちが次々と感染して入院を余儀なくされているという皮肉な状況になりました。

今回の新型コロナウィルスによって、アメリカのあらゆる問題点が浮き彫りになってしまうと思いますよ。ヘルスケアがうまく機能していないこと、BIG4の一角であるフォードの工場が閉鎖したり、中国に頼っていた物資が流入してこなくなったりしています。グローバルなつながりによって成り立っているこの世界で、「自国だけが良ければいい」という自分勝手な考えでは、行き詰まってしまうんです。

複雑化する個人情報保護法と「保持する情報を身軽にする」という選択

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須藤:今日大柴さんに一番聞きたかったのは、2020年にアメリカで施行される個人情報保護法「CCPA」のことなんです。あれだけ複雑な法律にアメリカの多くの企業は対応できているんですか。

大柴:率直に申し上げると、どの企業も対応しようと努力はしていますが、コスト面でも業務的な面でもほとんどの企業が対応しきれていません。ただ、アメリカの消費者はとてもシビアなので、この法律に対応していかなければビジネスはできなくなってしまうでしょう。

誰が情報の所有者なのかを明快にしておきたいというところまで消費者の考えが至っているので、アドテク的な考えでユーザーを囲い込むことに対する反発は凄まじいものがありますね。

須藤たくさん個人情報を持っていても、逆にそれがリスクや負債になる可能性もありますよね。日本にはこの考え方がまったくなくて、まだまだ「とにかく少しでも多く個人情報を持っておきたい」というものが主流。だけどグローバルで厳しい規定や罰則のある個人情報保護法が主流になってくれば、いらない情報は持たずに身軽にしておいた方がいいと考える企業だって出てくるんじゃないでしょうか。

大柴:そうですね、制裁金も莫大な額になりますから。日本のユーザーは「個人情報を取るな!」っていいながらも、個々人で情報を管理する意識がまったくないんですよ。行政をはじめとする「お上」が管理するもんでしょ、「なんで自分で管理しなきゃいけないの?」みたいな。それはちょっとナイーブすぎるんじゃないかなと思います。

須藤:日本では個人の情報を管理する「情報銀行」みたいな機関をつくろうと各事業者が飛びついているんですよね。そういう考え方って、アメリカにもあるんですか。

大柴:いや、聞いたことはないですね。

須藤:アメリカの人たちは、役所や銀行などで中央集権的にコントロールされるのが嫌いそうですよね。

大柴:ええ。「情報銀行」という単語を聞いただけで、ジョージ・オーウェルの小説『1984』に登場するBig brotherに支配されているようでとても嫌ですね(苦笑)。

須藤:なぜアメリカの人たちは、大企業や大きなものに統制されることを嫌うのでしょう。

大柴:大企業のやることって、消費者にとってよいことばかりではないし、たくさんの資本を持って儲けを狙って何かやるじゃないですか。リーマンショックの引き金になったサブプライムローンも、弱者からお金を取って銀行が儲けるやり方ですよね。

大企業や銀行などに対する不信感が、特に若い世代を中心に根強く存在しているんです。例えばアメリカでは昔からあった小切手を切る、ということすらも、後で銀行でデポジットしなければならないからという理由で、若い世代は嫌がるくらいなんですよ。

肥大したソーシャルイシューが企業姿勢を変えた

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佐々木:私からも質問させてください。大柴さんのお話を聞くと「Belief-driven buyers」(信念主導型の購入者)や「Purpose-driven companies」(目的意識の高い企業たち)といった考え方がとても印象的だったのですが、日本で昔からある「三方よし」※や松下幸之助の「水道哲学」と似ているような気がします。こういった日本古来の考え方とは異なるものなのでしょうか。

※三方よしとは……「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」。売り手、買い手ともに満足し、社会貢献もできるのがよい商売であるということ

大柴:アメリカは完全に「株主至上主義」の社会なんですよね。ステークホルダーよりも、株主が納得できる業績を四半期ごとに上げなければ、すぐ人員解雇や会社そのものが売却の対象になってしまう。資本主義社会の発想だったんです。

けれど、ここにきてアメリカも日本の「三方よし」のように「ステークホルダー至上主義」に転換せざるを得ないほど、環境問題をはじめとしたソーシャルイシューが複雑化してきてしまいました。

しかも消費者のレベルが高くなり、どれだけ工夫しても広告はきかなくなっている。その時マーケティングのテクニックとして企業のあり方を変えるのではなく、ソーシャルイシューに対して有言実行できちんと行動して、企業としてのあり方を見せることで消費者がついてくる。もう新たなPurposeを見いださなければ企業は社会の中でやっていけないというところまで来ているんですね。これが21世紀型の企業のあり方なのだと思います。

これってAIの話にも通ずると思うんですよね。これからAIが急速に進化して、とても人間に近くなってくる。その時、AIがどんな倫理観念を持ち何を大切にしているかを消費者は気にするんですよね。すると、AIを管理する企業が、どんな考え方をしているのかに消費者は立ち返るはずなんです。だって、そうじゃないと信頼できないから。

須藤:AIの時代になればなるほど、エシカル(倫理的)である必要があるわけですね。

大柴:怖いですよね。ものごとの正しさをAIが判断する時代になってしまうと、AIをつくっている企業の意図が社会の倫理観として認められてしまう。それは避けなければならない。そうなる前に、企業の考え方を把握しておきたいと消費者が考えるのは当然だと思います。

コロナショックを背負って戦う大統領選

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佐々木:Gen Zを始めとする若い世代の影響力が高まっているにもかかわらず、政治家はなぜ高齢化しているのでしょう。なぜ政治にGen Zの意見が反映されないのでしょうか。

大柴:今回の大統領選で、民主党の候補者の中にはMillennials世代もいたわけですよね。民主党にとって一番の関心は「誰がトランプに勝てるか」ということであり、「若くて女性でアフリカ系の候補者にしよう」という声が若年層から上がったとしても、それがトランプに勝てる切り札にならないと思えば、より中道路線の安定した候補者に集約されてしまう。

アメリカは二大政党制ですし、多くのエリアでは民主党か、共和党なのかという棲み分けが完全に決まってしまっています。その中で、どちらの政党に転ぶか不明瞭なのが「Swing States」と呼ばれる州です。ここで勝てる候補者は誰か、という観点で党内の候補者を絞っていくと、結果的に高齢者になってしまうんですよ。

でも今回はこれまでのトランプ大統領の行動を見て、民主党に転ぶ州がけっこうあるんじゃないかなと睨んでますけどね。それはリーマンショックの時にオバマ大統領が出てきたのと同様に、民主党の候補者は-おそらくバイデンになると思うんですけど-コロナショックを背負って戦うしかないからです。

それとトランプ政権になってからというもの、人々の生活はトランプの発言によって振り回されてるんですよ。みんなそれに疲れていて、とにかく普通に戻りたいと思っている(苦笑)。サンダースを支持する若い世代が「大改革」って掲げているけど、理想を現実化するには大きな努力が必要で、今のように疲れている人達に、それを推進するエネルギーがあるかどうかも疑問です。

会わずにできることが明らかになればDXは進む

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須藤:今回のコロナショックによって、日本やアメリカのDXはどのように推進されるでしょうか。

大柴:今、みんなテレワークになって、集会は禁止、教会にも行けなくなるなどこれまで気軽にFace to Face(F2F)でできていたことがすべてできなくなってしまいました。だけど、F2Fじゃなくても色んなことができるということに、みんな気づき始めているんですよね。

例えば教会ならZoomを使って礼拝をして、説法をしてもらえるということがわかったので、コロナショック後も高齢者は自宅からZoomで日曜礼拝に参加できます。

eラーニングなら、GoogleドキュメントやYouTubeで授業が完結しちゃうんですよね。すると子どもたちも高齢者も、会えない時はオンラインビデオで済ませたらいいじゃない、ということになる。

この何カ月かの間に「こんなこともデジタルで済ませられるんだ」とどんどんわかってくれば、逆にF2Fの重要性も増して、無駄なF2Fが減少して効率が上がる。みんなの価値観が覆るので、自動的にデジタライゼーションが起きてしまうと思いますよ。それを企業がどうとらえるか。大切なのはこれから起こるできごとを、ユーザー目線で見ることだと思います。

須藤:やはり、このコロナショックを通じて何を得られるのかをポジティブに考えていくことがDXを進めていくうえで重要ですよね。古い時代の価値観として残っていた慣習を新しい時代のやり方に切り替えるいい機会にしたいですね。

ゲストプロフィール
大柴ひさみ
JaM Japan Marketing LLC
共同創設者&マネージングメンバー
サンフランシスコ・シリコンバレーを拠点に、日本企業の米国市場向けの製品開発やマーケティング戦略の開発実施、 市場消費者調査を提供。16年間の電通Y&R勤務後、1995年米国移住、1998年JaMを設立。クロスカルチャーなナレッジを基にした「リアルな米国マーケティング事情Insight」は高い評価を受けている。著書にはひつじ書房刊『ひさみをめぐる冒険』、東急エージェンシー刊『YouTube時代の大統領選挙米国在住マーケターが見た、700日のオバマキャンペーン・ドキュメント』がある。
佐々木紀彦
NewsPicks Studios CEO/NewsPicks取締役
1979年福岡県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2012年11月、「東洋経済オンライン」編集長に就任。2014年7月にNewsPicksへ移籍。2018年より現職。最新著書に『日本3.0』。ほかに『米国製エリートは本当にすごいのか?』『5年後、メディアは稼げるか』、共著に『ポスト平成のキャリア戦略』の著作がある
須藤 憲司
株式会社 Kaizen Platform Co-founder & CEO
2003年に早稲田大学を卒業後、株式会社リクルートに入社。同社のマーケティング部門、新規事業開発部門を経て、株式会社リクルートマーケティングパートナーズ執行役員として活躍。その後、2013年にKaizen Platform, Inc.を米国で創業。
現在は日本、US、韓国、台湾の4拠点で事業を展開。WebサービスやモバイルのUI改善する「Kaizen Platform」、動画広告改善の「Kaizen Ad」、世界40ヶ国10000人以上のネット専門人材ネットワークからクラウド上で企業のデジタルマーケティングチームを提供する「Kaizen team for X」を提供。著書:『ハック思考』『90日で成果をだすDX入門』

前編

お知らせ

6月開講予定  NewsPicks × Kaizen Platform「DX人材養成講座」

DXとは何かといった基礎知識から、具体的なDX計画の策定方法、企業のDX戦略事例までを完全網羅。DXの専門家Kaizen PlatformのCEO 須藤憲司氏が講師を務める、次の日から一流のDX人材になるための全6回講座が2020年6⽉よりスタート予定。ご興味のある方はエントリーをぜひお願いいたします!

(文:石川香苗子、編集:Kaizen Platform公式note)


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