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【緊急事態宣言解除に向けた須藤憲司インタビュー】新型コロナが起こす産業構造3つの変化

『DXプレイブック』は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の専門家集団 Kaizen Platformの須藤による解説シリーズ。loT、サブスクリプション、AI、D2C、OMO、MaaSなどをキーワードに「DXとは?」を考えるDXの入門書『90日で成果をだすDX入門』(日本経済出版社)の番外編です。今回は、つらいけど目を背けてばかりもいられない「新型コロナ」に向き合っていきます。

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須藤 前回同様、このエントリでも過去を振り返りながら、コロナが起こしうる変化、特に産業構造の変化を整理していきたいと思います。

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(出典:ALIBABA NEWS

中国Alibaba社は毎年5月10日に、合同結婚式を行っているのをご存知でしょうか。従業員とそのパートナーが一堂に会し、創業者であるジャック・マーが結婚をお祝いするイベントです。

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(出典:ALIBABA NEWS

その日はAliDayと呼ばれ、従業員とその家族があつまるイベントが行われています。5月10日、その日は同社の創業記念日ではありません。

かつてのリモートワーク開始日なのです。

デジタルビジネスの躍進

2013年5月10日、一人のAlibaba従業員がSARSに感染しオフィスが使えなくなったことから、全従業員は自宅で仕事せざるを得なくなった。立ち上がったばかりの淘宝網(タオバオ)を運営すべく従業員は自宅から作業し続けた。15年経った今、淘宝網は中国最大のネットショップに成長した。(引用:「従業員やその家族とともにAlibabaの文化を体感する日、Aliday」Alibaba JAPAN

2013年、Alibaba社員が当時猛威を振るい始めていたSARSに感染してしまいます。それにより全社員は自宅勤務を余儀なくされてしまった。その逆境に耐えながら、急増するニーズへの対応を続けた当時のAlibaba社。結果運営するBtoBサイトは売上高4倍(昨年同期比)になり、毎日3,500人の会員増を記録し会員数も1.5倍に。(参考:https://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2003/0602/sars.htm

いまでは世界を代表するIT企業となったAlibaba社。2020年現在に至るまでの躍進ぶりはご存知の通りですが、その躍進の大きなきっかけになったのがSARSなのです。

いま新型コロナによる自粛要請下で、日本でも同様にEC利用が伸びています。外出が制限されると、デジタルビジネスが伸びるのはわかりやすい特長のひとつです。

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競合環境が変わる

つづいての特長です。景気後退局面では、競合環境が変化します。

ベインアンドカンパニー社が2019年に出したレポートに拠れば、リーマンショック後の10年で勝者と敗者の二極化が起きたと言います。不況時にCAGR(年平均成長率)が0%台に落ち込んだ企業群と10%を超えて成長を続けた企業群に別れたのです。

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(出典:Compass vol.1 2019

捉えておくべきは、両者とも好況時は成長していた点、不況が訪れた際に勝者は攻めの姿勢を継続し、むしろ好況時より高い成長を実現できている点です。そしてその「攻め」を実現できた企業はいずれも好景気のうちにエマージェンシープランを考え抜き準備を重ねていた共通点があると言います。

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(出典:https://www.costco.com/

その準備とは、自社のコア価値を定義し、それで勝ちきるためのリソース確保です。たとえばコストコ(米国)は、改めて品揃えを絞り込み、効率的な店舗運営を徹底しました。家計の苦しい顧客への還元に努め、ニーズを掴みました。倉庫を20ヶ所増設するなど商圏を拡大し、2011年2012年と二桁台の増収を実現できています。

現在の国内に目を戻すと、たとえば回転寿司チェーン「くら寿司」が注目を集めています。同社の3月売上は84.5%(対前年同月比)に落ち込んでいますが、『「10年前から危機に備えていた」くら寿司社長インタビュー』にあるように、今回のような景気後退に備え、キャッシュの確保とロボを活用した店舗運営の効率化を図ってきたと言います。

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(出典:くら寿司

回ってくるお寿司を清潔に保つ防菌カバーも、今後継続するであろう生活者の防菌ニーズにフィットするのではないでしょうか。

いわゆる「勝ち組」となるのか。答え合わせができるのは先ではありますが、今後の動向を注目していきたいです。

新産業・サービスの誕生

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不景気になると、人材の流動性が一定生まれることがあります。その行き来が新たなサービスや産業を生むきっかけになることがあるのでご紹介します。

たとえばアメリカでは、リーマンショックで多くの金融工学エンジニアが失業しました。彼らが広告業界に参入した結果、株式売買で一般的な仕組みだったRTB(Real Time Bidding)の仕組みがウェブ広告で採用され、現在のアドテク市場を作ったと言われています。ユーザからのアクセスが発生した際に、入札形式で金額と広告主を決定した上で、広告表示するようになったのです。

それまでは、広告枠がどれくらい発生するか、つまりユーザのアクセスがどれくらいあるかを推定した想定在庫を量り売りする取引方法が中心の中で効率化され、ディスプレイ広告が大きく市場規模を伸ばしていくキッカケとなりました。

さらに歴史を振り返ってみます。16世紀末のイギリスは中期的な寒冷化が起き、不作と飢饉が続いていました。

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(出典:「5. 中世ヨーロッパの商人と産業革命」、小塩丙九郎の
歴史・経済データバンク

当時の小作農民は農業を追われ、都市や郊外に移住した結果、当時盛んになっていた工業に従事したのです。それがイギリスの工業化、資本主義化を促進したと言われています。(参考:http://www.koshiodatabank.com/5-1-4-medieval_europe.html#item-2

このように恐慌など景気後退時に起きる人材の流動化が、つぎのイノベーションや次世代の産業成長を促進することがあります。

今回のコロナショックでは、どういう行き来が起き得るのでしょうか。

業績低迷に耐える企業を中心とした複業解禁によって、人材の流動化が盛んになることも考えられます。医療や飲食など引き続きルールチェンジもありそうです。既存の大手企業とXtechスタートアップの協働にドライブがかかるケースもありそうです。

まとめ

アウトブレイクなどをきっかけとした景気低迷時には、産業構造の変化が起きうることを今回ご紹介しました。

1.デジタルビジネスが躍進する
2.競合環境が変わる
3.新産業・サービスの誕生

引き続き厳しい環境が続くことが想定されますが、改めてみなさんが取り組む事業を俯瞰して次なる一手の検討にお役立てしてもらえたらと思います。

次回は、中期化するコロナショックに対して、事業をどのような方針をとるべきか、その概論を説明したいと思います。

(撮影/森川亮太(箕輪編集室))

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